2015.07.28 のニュース
運輸部門における石油の重み
東日本大震災を踏まえ、石油を中心としたエネルギー供給サプライチェーンの強靭化や石油産業の経営基盤の強化、石油製品販売業における再投資可能なマージンの確保などを提言した中間報告を昨年7月にまとめた資源エネルギー庁は、同中間報告公表から約1年が経過したことから、資源エネルギーの需給・価格変動や資源・燃料政策の動向を再点検するため、今年5月末から資源・燃料分科会での議論を再開し、7月13日に報告書を取りまとめた。
災害時に備えたエネルギー需給体制の構築、エネルギー供給を担う産業の事業基盤の再構築に向けた検討に加え、今回の分科会で大きな注目を集めたのが、エネルギーセキュリティの強化に向けた運輸部門における燃料多様化という議論だ。
EVの普及や燃料電池車(FCV)の市販開始で、石油以外の次世代自動車の増加が見込まれるものの、運輸部門では95%以上をガソリン・軽油に依存する構造となっている。
このため、国際的にも利用が進み始めている大型CNG・LNGトラックを貨物輸送に導入・普及させ、環境対応を推進していくほか、大規模災害の発生を見据えた緊急輸送にも対応できる体制を構築していくなどの方向性が示された。
出席した委員からは、運輸部門の燃料多様化は「石油サプライチェーンを脆弱化させ、地方部を中心にSS過疎地域を拡大することになる」や、「供給インフラ整備を支援する場合、政策によりガソリン需要は低下し、石油サプライチェーンの脆弱化につながると考えられる。石油緊急時供給力の低下や、関連産業の雇用減少にもつながるのではないか」と、石油業界への影響を危惧する声が相次いだ。一方で、全石連の河本博隆副会長・専務理事からは「普及台数は少ないが、FCVやCNG車などには燃料税が課税されていない。燃料の多様化を進めるのであれば、公平性の観点から、燃料課税の見直しを考えるべき」と問題提起した。
2030年度の長期エネルギー需給見通しでも、1次エネルギー供給で石油は最も大きなシェアを占め、いざ災害が発生すればエネルギー供給の“最後の砦”となるのが石油である。資源の乏しい日本でエネルギー多様化を推進していくことは重要だが、消費者の選択や利便性を損なわせることがないよう、バランスの取れた政策誘導が求められる。