2016.05.19 のニュース
全農は「SS過疎」促進剤か
地方社会の経済活動の中で、大きな地位を占める農協。その改革が政策課題となっている渦中ではあるが、農協の地域社会におけるウエートは、概して地方自治体に準じるような位置付けにある。石油においても共同購買事業としてのJA-SSを筆頭に、大きな位置付けを占める。地方の主役を成すという事実から、エネ庁が主宰するSS過疎地問題協議会でも、地場SSの存続と同じ重要度でJA-SSも扱われている。多くの地域で、地場SSを経営する専業事業者とは、同業者ではあっても一定の距離感を保ちながら棲み分けてきた。ところが、その関係が激変しようとしている。
「地域農業の振興と特色と活気ある産地づくり」「くらしの活動と地域社会の共生」。関東近郊の単位農協の経営方針であるが、地場SSとは共生し得ない事実が石油販売業界を侵食し始めている。その多くが農協SSではない。全農SSの話だ。このことが地域社会の連携を分断し、地域の生業SSの前途を暗くしている。
「安い地域の値段を全SSで適用」「遠方のPBより安値」「レシート値引きなどとにかく廉売指向が強い」。全農SSについて、「地域では全く話にならない」という全石連に集約された都道府県石商からの声であり、特に中国、四国、九州からの悲鳴が多い。「長崎のSSを脅かす全農ガソリンの安値攻勢の影響力」の見出しがついたエネルギー専門誌の記事中には、「生き残りをかけて事業展開している」という全農の弁が紹介されている。全農SS担当者には「共生」は死語となっているかのように映る。
エネ庁では、石油販売業の方向性について、既存の燃料油を「集約」によって「規模拡大」=「生産性の向上」を掲げているから、全国7つの石油基地と自前のローリー部隊を傘下に置くことで「製品輸入や原油委託精製という手段も講じつつ、元売との交渉力を高める」という全農SSモデルは、その側面ではお墨付きを得ているのかもしれない。ただし、地域性を加味しない単なる大資本・全農SSが「準会員」どころか「員外」利用を当然とする商法で集客を図り、「生き残りをかけた」独善的な廉売戦を持続するならば、地方の生業SSは生存の余地が極めて小さくなる。全農SSの自己生存活動が高まるほど、SS過疎地は増えることになる。