「門戸の開放は何を生むのか」 2006年12月20日更新
―外部からの援助は人間を弱くする。自分で自分を助けようとする精神こそ、その人間をいつまでも励まし元気づける。人のために良かれと思って援助の手を差し伸べても、相手はかえって自立の気持を失い、その必要性をも忘れるだろう。保護や抑制も度が過ぎると、役に立たない無力な人間を産み出すのがオチである。いかにすぐれた制度をこしらえても、それで人間を救えるわけではない。いちばんよいのは何もしないで放っておくことかもしれない。そうすれば、人は自らの力で自己を発展させ、自分の置かれた状況を改善していくだろう。-
これは今から100年程前に英国で活躍した著述家であるサミュエル・スマイルズ が著した「自助論」の竹内均訳からの抜粋である。産業革命の成功により繁栄を謳歌した英国に於いて、社会が安易な方向に向って傾いていく事に警鐘を鳴らしたのがスマイルズである。彼の指摘は真に的を射たものであり、その著書は100年を経た現在に於いても多くの読者の心を捉えている。彼が指摘する間違った世相は、100年後の現在の日本のそれに驚くほど似ており、そのまま今の日本の世相にたいする警鐘となりうるものである。
たとえば今の日本では経済の活性化のために若い起業家を増やさないといけないとして資本金1円でも企業の設立ができるようにした。また一度失敗したら出直せないようでは起業家のチャレンジ精神が育たないとして出直し支援の策が講じられている。はたしてこれにより健全な新しい企業があるいは経営者が育つのだろうか。まさにスマイルズが言う「役にたたない無力な人間を産み出す」ことになるのではなかろうか。
起業家支援策などまったくない時代に於いてもトヨタやホンダやソニーは起業され、現在も世界になだたる企業として成長を続けているではないか。大体に於いて南方の恵まれた環境で育つ樹木は成長は早いが柔らかい。北方の厳しい環境下の樹木はその反対である。この道理は人間に於いても変らない。厳しい環境下で生まれた企業は、それだけ多くの困難に耐えながら必死に成長を目指すので、スピードは遅くても地に根を張って着実に育っていくのである。このような価値観を是非今の日本に広めて行きたいものである。スマイルズに関しては今後も折に触れて日本の世相に対比する思想として引用していくつもりである。
今回で今年のコラムは終了となります。一年間お付き合い頂いた読者の皆さんに厚く御礼申し上げます。来年は1月の後半から執筆いたします。どうか良いお年をお迎えください。
(一本杉)