「原子力発電について」 2008年01月16日更新
アメリカが10数基の原子力発電所の新設を認めるようだ。アメリカでは1979年にスリーマイル島の原子力発電所で炉心溶融という大事故が起こり、以来原子力発電所の建設は認められていなかった。ではなぜここにきてこのような大きな方針の転換が行われるのだろうか。どうやらその理由は最近の原油価格の高騰にあるらしい。
1970年代のアメリカの石油輸入依存率はさしたるものではなく、原子力に依存しなくても石油やガスの供給に心配はなかった。これも原子力発電所の建設の禁止にあまり抵抗がなかった理由のひとつであろう。しかし今はアメリカの 石油輸入依存率は50%程度に増えている。もともとこの依存率の上昇そのものが国家安全保障上の問題点であったのだが、原油価格の高騰により発電コストが上昇しこれがひいては諸物価の上昇を招き、ガソリン価格の高騰と相俟って国民生活を圧迫するという事態を引き起こしている。これは大統領選挙を間近に控えている与党としては具合が悪い。なにか解決策を示さなければならないということだろう。
さらに地球温暖化問題で、アメリカは最大のCO2排出国であり京都議定書にも調印していないことで国際的に批判の対象となっており、これも原子力発電再開に踏み切った理由のひとつとみられる。こう考えると新設認可は当然の対策ともいえるのだが、ことが原子力だけに不安を感じざるをえない。
そもそもなぜアメリカは原子力発電所の新設を禁止したのだろうか。やはり原子力発電の信頼性に疑問を持ったからだろう。だとすればその疑問が解消された時にのみ新設の許可をするのが本来の筋である。いまのところその疑問が解消されたという話は聞いていない。つまり今回の新設解禁はあるべき姿からは大きくかけ離れていることになる。危険性に目をつぶった判断であり嫌な予感がするのである。
これがアメリカだけの話しであれば大して問題視する必要もないのかもしれない。しかしもしこれが世界的な流れを作るとなるとそうはいかない。現に英国でも新設許可が報道されているし、他の欧州各国でも同様の動きが見られるという。我々日本としては最も注意しなくてはならないのが中国の動きである。高度な経済成長を続けている中国では電力の不足が大きな問題となっているが、もうひとつの問題として殆んどの発電所が石炭火力に頼っている現実がある。石炭火力はCO2を大量に排出するため地球温暖化防止の観点から問題視されている。そこで中国が原子力発電に大きく傾斜する可能性が非常に高い。もしそうなると多数の原子力発電所が中国で建設されることになる。これらが万一事故を起すと、丁度黄砂が毎年日本に飛んでくるように放射能が日本上空にやって来るだろう。1986年のチェルノブイリ事故では漏れた放射能がはるかに離れたスウェーデンで観測されている。
このように考えると原子力発電の解禁を単にアメリカでの話しとして片付けるわけにはいかない。機械は必ず故障し人は必ず間違いをおこす。信頼性の向上という必要条件を満たす事なしに原子力発電所を安易に増設していくのは真に危険な所業であると言わざるをえない。
(一本杉)