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「原油価格高止まりの可能性とその影響」 2004年03月09日更新

このところ原油価格が高騰している。 ニューヨークのWTIスポット価格は3月2日の終値でUS$36.63/Bbl.となっており これは米軍のイラク侵攻直前の価格と略同じである。 

中東地域は世界の原油供給地域であるから ここで異変が起きると原油価格は高騰する。 1990年の湾岸戦争の時にも原油価格は高騰し 開戦直前にはWTI価格はUS$40/Bbl近辺にまで高騰した。 しかし 開戦と同時に急落している。 テレビで戦況が逐一報道され 戦争は短期に終結すると見えたからである。

今回も戦況は一方的であり あっけなくフセイン率いるイラク軍は崩壊した。勿論この時点で原油価格は下降している。 しかし その後再び持ち直し ついにイラク侵攻直前の高値に並んできた。 この理由は明白である。 戦闘は終ったが 混乱は続いているからである。 しかも 状況は泥沼のように見える。 よって 原油価格は 下がりたくても下がれないといったところか。 イラクの状況に明るい変化が現れるまでは 原油価格の大幅下降は期待できまい。

ここで 原油価格の高位安定で得する者と損する者を考えてみよう。 まず 得するのは 産油国であり メージャーオイルを筆頭とする石油生産会社である。 産油国とは自国の消費量を上回る石油を生産し 余剰分を輸出している国のことである。 よって米国は世界有数の石油生産国であるが 同時に需要の約半分を輸入しているので  この中には含まれない。 勿論 中東の産油諸国はこの中に含まれる。 また ロシアも同様である。 石油生産会社は 恩恵をフルに享受することになる。 メージャーオイルの決算は 空前のものとなろう。

損するのは当然ながら石油消費国である。 特に日本は石油の殆どを輸入に依存しており 大雑把に計算して原油価格が1ドル上昇すると1日あたり500万ドルの追加支払いが必要になる。 外貨事情が逼迫している国であれば これは大変な事態と言えるが 日本は外貨が溜まりすぎている国だから 支払いに困ることはない。
さらに 円の対ドル相場は堅調だから 原油価格の高騰の影響は緩和され 日本経済に与えるインパクトもその分軽減される。

しかし 中国にとっては 原油価格の高騰はもっと複雑な問題となろう。 中国の経済成長は群を抜いており これに伴い石油の消費量も増加し その増加分の殆どを輸入に頼っている。 中国も好調な輸出のおかげで 外貨準備は潤沢であり 外貨支払いに当面困ることはない。 だが 輸出が好調なのは中国元が米ドルにリンクされていることによる部分が大きい。 経常収支の大幅赤字に悩む米国は 最大の輸入先 である中国に対し元の切り上げを迫っている。 中国としても おそらくこれを無視することはできまい。 中国元を切り上げれば 当然輸出は減少するだろう。 日本と 違い 中国の外貨準備は専ら貿易収支の黒字によるものだから 輸出の減少はそのまま外貨準備の減少となる。 国際社会が要求しているように 中国が内需の拡大に努め その結果内需が膨張すると 原油を含めて輸入は減らず外貨は減ると言う事態となり中国は苦悩することになると思えるのだが。

(一本杉)

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