「日本経済の変質」 2006年08月15日更新
今年上半期の貿易黒字が前年同期比23%ほど減って約4兆400億円となり、過去最低となったという。一方企業や個人の対外投資から生じる収益の動向を示す所得収支の黒字は30%ほど増えて約7兆300億円となり、これは過去最高だそうだ。つまり日本国の対外収支の中身が大きく変質してきているのだ。物の売り買いから生じる収益が減る一方、対外投資が生む利益が増えているということだ。商売型から金融型に変っていると云ってもよい。
貿易黒字の減少の原因として挙げられているのが原油の高値である。因みに計算してみると、原油価格がバーレル当り10ドル上ると日本が支払う原油代は年間2兆円増えることになる。上記期間の原油価格の平均は62ドルとされているが、2年ほど前には30ドル台であったから2年で原油代金の支払額は年間6兆円増えたことになる。そして現在の原油価格が当分続くとすれば下半期の原油価格は70ドルを越えるだろうから、下半期においては原油代金の支払額は更に1兆円増えることになる。貿易黒字は少なくともその分減るだろう。
所得収支の方は過去の投資が果実を生む段階に入ったことで黒字が大幅に増加してきているが、この傾向は当分変ることはないだろう。むしろ中国などの経済が成長を続けていることに鑑みると、今後も投資は増え続けそれに伴う収益も増え続けると見るのが妥当だ。トヨタが遂に世界第二位の自動車会社になったが、今後第一位を目指すとすれば巨額の投資が必要だろうし、その大半は対外投資となろうし、その収益がトヨタの利益の大きな部分を担うことになろうし、したがって日本の所得収支も増加するという理屈である。
こう考えると明らかに日本経済の体質は変化し続けている。生産は国内で行い製品を輸出して外貨を稼ぎ、その金で原料などの必要なものを輸入するのが従来の日本経済であったが、今や生産の現場はどんどん海外へ展開しているし製品もそこから直接海外の市場に向けられるようになってきた。そのかわり 輸入に必要な外貨は対外投資の収益として日本に入ってきている。おそらく国内の生産現場での労働需要は徐々に減っていくのだろう。このような日本の経済の変化は まさに出生率の減少という状況に見合っているではないか。
このように変化を続ける日本において今後需要が増えるのは頭脳であろう。海外の生産現場に最先端の技術を提供し、生産管理を徹底して世界中の消費者に喜ばれる製品を提供しなくてはならない。そのためには研究開発部門を充実させることが大切であるとともに、世界中から情報を収集して企業の進むべき方向を決めて行かなくてはならない。これは頭脳労働者の仕事である。世界の国々の文化にも精通することが重要となるだろう。つまり様々な分野における優れた頭脳が大量に必要となる時代が迫っているのだ。そのために学校も企業も教育の重要性を認識して積極的な教育投資を行うべきである。
(一本杉)