2011.05.10 のニュース
原油急落が示すリスク評価
一人の人間の生死が原油相場を10ドル動かす。そんなように見えてしまう先週の相場動向だった。
先週2日(米国時間1日深夜)にオバマ米大統領がビンラディン容疑者の殺害を発表、即座に原油市場ではこれを中東地域の地政学的リスクが低下したと見なして「値下がり」要因と評価、3日にはバーレル2ドル強の値下がりを記録した。4日にもこの地合を踏襲しながら米国の原油在庫増という要因が加わり、さらに2ドルの値下がり。そして翌5日は10ドルに迫る記録的な大暴落を記録する。
冷静に足跡をたどると、この5日の暴落は、米国の失業増、米国の経済成長鈍化という解説がされており、ビンラディンという人物の陰は見えなくなり、ほぼ米国経済の固有事情のようにしか見えない。1日で10ドルの史上稀な大暴落を装飾するには、やや迫力不足な解説であり、連動してやはり6日に記録的な暴落となったアジア指標のドバイ、オマーン原油の相場動向を解説するには、「米国がくしゃみをするとアジアが風邪を引く」という相関関係は理解できても、記録的な値幅の暴落に対しては、やや言葉足らずとなる。
要は、下落リスクを忌避した投機マネーが、一人の人間の生死を材料として、売り一辺倒へとシフトしたのだろう。近未来の世界から、原油史上におけるビンラディン・ショックという代名詞が付与されることになるのかも知れないが、先進国が一丸となって監視するという枠組みができても、商品市場における投機マネーのコントロールが機能していない、ということでもある。
暴落の後には反発するというシナリオもあるから、これをもって、ここしばらく続いた原油高の状況は去った、という判断も時期尚早である。特に、大震災後の後遺症が依然として色濃いこの国で、ほぼ丸1県に相当する経済エリアが原発リスクで完全に機能不全となっているこの国ではなおさらだ。
今週の小幅仕切り下げをそのまま反映する者(SS)もあろうし、時期尚早の判断で、小幅下げを増幅させた小売価格を出現させる者も出てこよう。いずれの選択肢を採ろうが、全体のパイが小さくなりそうな情勢下では、SS業界の全体収益を削り取る方向を進むことになる。元売の収益の極大化の源泉と同様、粗利を拡大することでしか、我々の個々の収益は改善しない。