「原油価格高騰とドルの流れ」 2004年11月15日更新
原油価格の高騰は依然として続いており 二年前と較べると約二倍の価格に
なっている。これは日本のような消費国は 原油代として約二倍のドルを支払っていることを意味する。そして石油輸出国には 二倍のドルが流れ込んでいることになる。日本は外貨準備が増え続けていて むしろ困っているくらいだから この程度の外貨支出はさしたる問題ではない。しかし外貨不足に陥っている消費国にとっては これは大変な問題となる。
ところで今回は 石油輸出国へのドルの流入の状況とそれがもたらす問題に
ついて イラクに国境を接するクウェートを例にとって考えてみよう。
クウェートは人口約80万人の小さな国である。ところが大げさに言えば国全体が巨大油田の上に乗っているような状態で OPECによる原油生産枠は180万バレル/日だが 生産能力は240万バレル/日と言われる。(因みに 日本の石油消費量は 大雑把に言って500万バレル/日である)。本当のところは 需要がある限り生産し輸出していると思われるが ここでは生産枠をベースに話を進めよう。
輸出原油の価格は二年前が20ドル/バレル 現在が40ドル/バレルと考えてそう大きくは違っていないだろう。とすれば クウェートの原油輸出収入は
二年前が一日あたり3,600万ドル 現在が7,200万ドルと計算される。 年間ベースになおすと 二年前が約130億ドルであり現在が約260億ドル となる。 つまり クウェートの原油輸出収入は 二年前に較べて約130億ドル増えているわけだ。(生産量と輸出量を同じに見ているのは 国内需要が少ないのでこれを無視したもの)。
さて クウェートはこの増加したドル収入をどのように使うのだろうか。
普通ならば これは国の経常支出の財源として使われるのだが なにしろ
クウェートは国土も小さく人口も少ない国である。 増加分を人口で割ると
一人当たり約16.000ドルとなる。 日本人にこの金額を割り当てると約9,000億ドル約190兆円になることを考えれば この金額の持つ意味が理解できよう。つまり クウェートとしてはこの増加分は使いきれないのである。
無論 クウェートとしてもこれだけの現金を金庫の中に放置しておくわけにも
いかないから おそらく金融資産として対外投資に向けるだろう。 なにしろ
年間一割の配当があれば 13億ドルの収入となるのだから。 このまま
何事もなく推移すれば すべては順調と言えよう。しかしそうは問屋がおろさないのではなかろうか。
クウェートの持つドルを狙って おそらく世界中から様々な売込みが行われる
と思うが 民生品などはそもそも需要が少ないので成功しない。 ところが
抜群に効果的な商品が存在する。それは武器である。クウェートはイラクの侵略を受けた経験から 国防に関しては費用を惜しむわけにはいかない。
またその時にアメリカにより国土を回復できた経緯から特にアメリカの意向には従わざるを得ないだろう。
このようにして 必要があろうが無かろうが クウェートは高額な武器を購入
することになり 原油価格高騰により増えたドル収入の多くは アメリカを中心とした武器の供給国に還流して行くだろう。この結果よしんば最新鋭の武器を手に入れたとしても 大敵と戦うにはあまりにも小国すぎるので国の防衛にはアメリカなどの力を引き続き借りるしかないのだ。ひよわな金持ちの宿命と言えようか。
(一本杉)