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「異質な高値」 2008年04月22日更新

原油価格がニューヨークでバーレル当り110ドルをこえて史上最高値をつけたが、これは過去5年ほどで約4倍に高騰したことを意味する。製鉄原料炭も今年は去年の3倍の値段で決着したというし、発電用の石炭もほぼ同様の値上がりを見せている。鉄や非鉄金属などの地下資源も大幅の上昇であり、さらには農作物も異常ともいえる値上がりである。こうした今回の全面的な価格高騰はこれまでに経験したものとは明らかに異質な物と思える。

第一次石油危機の後に起こったインフレのときには、その後消費が落ち込みやがて原油価格も下がりサウジアラビアは価格維持の役割をあきらめて価格決定をニューヨークの先物市場に委ねることにした。結果的に誰もが妥当と思うようなレベルで価格が落ち着いたのである。つまり原油価格が不当に安いと主張する産油国がOPECを創設して価格の引き上げを図ったのだが、結局人為的な価格操作には無理があることを証明したのだ。しかし今回の資源価格高騰の足どりは前回よりはるかにしっかりとしたものであり、反転の兆しが中々見えてこない。

例えば船舶用燃料重油の価格は原油と同様かそれ以上に上昇しており、運航会社の燃料費は4-5倍にもなっているが依然として需要は旺盛である。船舶そのものの価格も急騰しており本来これらが運賃に反映されたら需要が離れていく筈なのだが、多用途に利用できるバラ積み船を中心に需要は衰えていない。新造船の受注量も数年先まで能力一杯の状況だという。前回には無かった要因が存在しているとしか思えない。

それに相当すると考えられるのが中国とインドの経済成長である。この両国の人口を合わせると世界人口の三分の一を超える。したがってこの両国の経済の状態が世界の経済に大きく影響するのは当然である。中国は毎年10%をこえる経済成長率を維持しており、安い人件費を武器に米国を中心に廉価商品を輸出して巨額の外貨準備を蓄えている。世界中の企業が中国の需要増加を見込んで次々と進出している。インドの場合、中国ほどではないが同じような道を着実に歩んでいる。

ところで、もしこの両国が先進国並みの消費需要を持つようになったら、地球にある資源をすべて吸い上げたところでまだ足りないだろう。熾烈な資源争奪戦が起こる可能性がある。この問題を武力をもって解決しようとする国が出てきても不思議ではないし、そうなったら世界の治安は崩壊し地獄のような有様にもなりかねない。これらはすべて架空の話しであるが、その可能性が絶対にないと説明するのが難しいかぎり、世界中が知恵を集めて平穏な将来を手に入れる努力が必要だろう。今起きている資源価格の高騰は、これから起きようとしている悲劇の前触れのように思えるから。

(一本杉)

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