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「無駄の効用」 2010年05月11日更新

一般に無駄という言葉は悪い響きを持っている。無駄遣いと言えば馬鹿な使い方を意味するし 無駄なことと言えば不必要なことを意味する。しかし それにしてはこの世の中無駄が多くて無くならないのはなぜだろうか。案外無駄は不必要ではなくて 必要なのかもしれないとさえ思えるのである。もし無駄が必要なものだとしたら それはいったいどのような役割を果たしているのだろうか。思いつくのはそれはちょうど自動車のハンドルのあそびに相当する役割をはたしているのではないかということである。あそびがないとちょっとしたハンドルの動きによって自動車の進行方向が左右にぶれて安定した走行ができない。このあそびによって安定した運転が可能になっているのだ。

我々の生活のなかでの無駄も案外このような働きをしているのではないか。例えばガソリンの店頭価格が急騰するとたちまち消費量が二割程度減ることが経験的に知られている。これは通常時の消費量の二割程度が無駄使いであることを示している。消費者としては無駄を省くだけのことであるからさして痛痒を感じないし この需要急減により価格が下げに転じればまた無駄使いを始めるだけのことである。だがさらに価格が高騰した場合には今度は大変だ。つまり無駄でない部分を減らす必要が出てくるからだ。しかしこの時点に於いても無駄が全くなかった場合と較べればはるかに対処しやすいだろう。

ガソリン消費量に限らず我々の日常活動の二割程度は無駄な部分であると考えてよさそうだ。ここで注目すべきは無駄遣いは減るのも早いが増えるのも早いという特質だ。価格高騰時に急激に需要が減るがこれは無駄が減っただけであるから慌てる必要もないし その後に来る急激な需要の上昇を見て経済が本格的に立ち直ったと安易に判断するのも間違いということになろう。この段階ではまだ消費者が失った無駄の部分を取り戻しにかかっているにすぎないのだから。

ところでこの無駄を経済政策にうまく取り入れることができないものだろうか。たとえば企業交際費である。これは現在損金算入を基本的に認めてられていないから企業は使った交際費の額に応じて税金を支払はなくてはならない。もし交際費の半額でも損金算入を認めるなら企業交際費の支出額は大幅に増えるだろう。金額でいえば一兆円を超える支出増が生まれると思われる。そしてその支出は主に三次産業に向けられるから雇用の増加を伴うことになる。現在政府は企業所得税の減税を考えているようだが これによる企業の収入増は内部留保に回ったり社員の賃上げに使われたりするのが通常だ。これでは一般の雇用増加には繋がらないし また反応のスピードが遅すぎる。企業交際費減税はいうなれば無駄遣いを奨励するようなものだから 企業側の反応は即座にあらわれるはずだ。そもそも企業交際費は以前損金算入されていたものが 景気過熱の時期に景気を冷やす手段として損金不算入とされたのである。ならば現在のように景気停滞の時期には損金算入に戻すというのはごく自然の考え方であると思うのだが 頭の固い秀才以外の方に考えていただきたいものである。

(一本杉)

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