「円高」 2010年09月07日更新
外国為替取引において米ドルが日本円に対して下がると日本ではこれを円高と呼ぶ。しかしこの用語は誤解を招きやすい。円高というと円がすべての外貨に対して上昇したかのように聞こえるが 実際には円ドル相場のみを見て言っているのである。このところ日本円の対ドル相場は85円前後と歴史的にも高いところにあるが これはドルが弱くなったから相対的に円が強くなったのであり つまりこれはドル安と呼ぶべきであろう。このほうが実態をはるかに適切に表現している。
ドル安といえばその原因はアメリカにあり日本円はその影響を受けているだけだと言うことがすんなりと理解できるだろう。マスコミや政界ではあたかも円高が日本側の失政に起因しているかのごとき論法が目立つが これは経団連などの輸出依存型の企業集団に影響されたものとしか思えない。輸出依存型の企業はその性格上為替の変動にはもっとも影響されやすい企業であるがゆえにその対策には様々な手を打っている。今回程度のドル安で企業の存在が脅かされるようであれば そのような脆弱な企業は早いところ潰れたほうが良い。にも拘らず円高対策を要求するのは言わないよりは言った方がなにがしかの儲けにつながると思うからだろう。こうした使い古された薄っぺらな手法は忘れた方がましである。
そもそもアメリカ起因のドル安である以上日本が独力で流れを変えるのは不可能に近い。もしどうしてもドル高に持っていきたいのであればアメリカとよく話し合って両者協調の上でやるしかないだろう。しかしアメリカは輸出増大を経済回復の柱に据えており とすればドル高の話に乗るわけにはいかないだろう。つまりドル高円安の流れを今作るのには無理があるのだ。それよりもドル安の流れに乗って日本の国益を図ることを考えたらどうだろうか。
日本の自動車や電器やカメラなどの企業は長い間輸出によって利益を上げてきた。ある意味では戦後の日本経済はこうした企業によって支えられてきたと言ってもよいだろう。しかしその一方で日本が消費する石油や天然ガスなどのエネルギーはほぼ100%を輸入に頼っている。農産物もその自給率は40%と言われており つまり60%を輸入に頼っているわけだが 40%の日本の農業生産も
温室栽培などエネルギー依存度が非常に高くなっているのが現実でありエネルギーの輸入なしには成り立たない。
ところでエネルギーはドル建てで取引されておりドル安の時には日本のエネルギーコストが下がっていることになる。食料の輸入に関しても同様だ。国民が享受するドル安のメリットは莫大なのだ。しかしこのメリットは将来円安に向かうに連れて消滅する。そこで一案だが原油などの採掘権を偶々安くなっているドルを使って買収したらどうだろうか。たとえばメキシコ湾海底油田での原油漏洩事故で巨額の損失を蒙っている英国のBP社がその穴埋めに資産の売却を図っている。これを引き受けたら安いドルで貴重な石油・天然ガスの資源を
手に入れることができる。さらにこの資源は将来円安に向かったときにその価値を上昇させるのだ。国民の利益に適うのではないか。
日銀が為替介入をしても(1)巨額の資金を必要とする(2)その割りに単独ではさしたる効果を期待できない(3)波及効果がない ということになるが
資源買収のもたらす利益と較べたらどちらが有効かは明白である。ただしこれは日銀の仕事ではなく政府の仕事である。政府が資金を提供し民間に実務を任せれば問題なく実行できるのだ。政府や役所の皆さんにこうしたビジネスの感覚をもって仕事を進めて頂きたいと思うのだが。
(一本杉)