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「水は大丈夫か、日本」 2007年07月19日更新

日本には昔から湯水のように使うという言葉があるが、それほど水と燃料には不足しなかったのだろう。桃太郎のお話では、おじいさんは山へ柴刈りにおばあさんは川へ洗濯に行って、おばあさんが見つけた川を流れてくる桃から桃太郎が生まれたことになっている。このお話では水も燃料も果物もすべて無料でありいくらでもある。自然に恵まれた豊かな生活がそこには描かれている。まちがいなく日本は美しく良い国であったようだ。

しかし目を現代に移すと、現実は大きくかけはなれた様相を呈している。ご存知のごとく日本は南北に細長い島国でありその中央を魚の背びれのように山脈が続いている。これが分水嶺となって、東側に降り落ちた雨は太平洋に、西側のものは日本海に流れていく。つまり水源から河口までの距離が短く、且つ勾配が急であるのが日本の特徴である。これがなにを意味するかというと、この地形を見る限り日本はきわめて保水能力に乏しい国であるということだ。降った雨は短時間で海に流れ着いてしまうのである。とくに最近のように棚田が減り森林が開発などにより伐採されると、その保水能力はさらに著しく弱まるのである。

ではなぜこれまで日本はさしたる水不足に見舞われなかったのだろうか。その秘密は理想的ともいえる気象による水の供給に恵まれてきたからである。冬には大陸の寒気が南下して日本海の水分を吸い上げた後に日本の山脈にぶつかって雪を降らす。この雪は山脈に蓄えられ夏までの間に徐々に溶けだして下流を潤す。春と秋には夫々梅雨前線と秋雨前線が日本付近に停滞し長期にわたって雨を降らす。さらに夏から秋にかけては南方から次々に台風がやってきて大量の水を運んできてくれる。このように一年を通じて水の供給を受けられるのはありがたいことだが、これが微妙な気象のバランスによっていることを忘れてはならない。

もし冬に山脈に雪を積らす大陸の寒気の南下が弱まったら、梅雨前線や秋雨前線の位置が南北に移動したら、また台風の進路が日本を避けるようになったら、たちまちにして保水能力に欠ける日本は水枯れの危機に見舞われることになる。
そしてこれは決してありえないことではない。最近地球の温暖化による気象の激変を危惧する声が強まっている。空気中のCO2濃度の増加が地球の気温を上昇させ、これが海面温度を上昇させて気象をこれまでとは異なった形態に変化させるそうだ。また南極や北極の氷が大量に溶けだして海面が上昇し水没するだろう島が幾つかあるし、大量の冷たい水が海底に流れ込むことから海流にも変化が生じこれが様々な地域の気象に大きな変化をもたらすのだそうだ。

このような危惧されている変化に日本だけが見舞われないということはあり得ない。むしろ島国である日本こそ、こうした変化を最も受けやすい国であると考えるのが自然だろう。だとすると日本の水不足は現実の問題として捉えられるべきである。気象の変化により雪や雨がこれまでのように降らなくなったら日本はどうするのか、真剣に検討し何らかの対策を今から講じておくべきである。

(一本杉)

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