「円高の功罪」 2008年11月20日更新
ここにきて円高が急激に進み日本中が口を揃えて大変だといっている。理由は輸出価格が高騰し販売量が減って輸出企業の収益が落ち込むことにより、日本の経済に悪い影響を与えるからだという。政界・財界そしてマスコミまでが輸出産業が受ける打撃を心配しているようだが、こうした考えは戦後長い間続いた輸出立国日本という認識から一歩も進んでいないもので日本の現状をしっかりと把握したものではないと言わざるをえない。
日本の国際収支を見るとかなり以前から資本収支の黒字が貿易収支のそれを上回っている。つまり日本で作った物を輸出して手にする利益より海外投資から得る利益の方が多いということだ。したがって円高を心配するならこの資本収支の黒字が目減りすることを心配するべきであろう。しかし海外投資に関しても円高により新しい投資に要する資金がその分少なくて済むことになり、より効率的な投資が期待できることになる。けっして悪いことばかりではない。現に国外における日本企業が仕掛けるM&Aが最近次々と報道されているが、これがなによりの証明となろう。
一方目を国民の生活に転じてみると円高の影響はむしろ良いことばかりである。日本はエネルギーの殆んどを輸入に頼っているが円高によりこれが安くなる。NYでの原油相場は一時140ドルを超えたが現在の相場を70ドルとすれば約50%安くなったことになる。さらに当時の為替相場を1ドル¥110であったとし現在のそれを¥95とすればここでさらに15%安くなっている。結果日本としては原油のコストは6割も下がったことになる。店頭のガソリン価格も年末には¥120を割るあたりまで下がっているだろう。また電気やガスの料金も引き下げの道をたどるだろうことは間違いない。
食料も日本はその約6割を輸入に頼っている。当然こうした食料品の価格は円高に伴い安くなる。つまり月給は上らないが生活費は段々安くなるわけで、形を変えた昇給に等しいと言えよう。さらには休暇を使っての海外旅行も同様で、韓国などではすでに日本人の観光客が殺到しホテルの予約をとるのも大変なようだ。なにしろ数ヶ月前の半額ほどで休暇が楽しめるようだ。まさに円高の恩恵である。
自動車などの輸出産業は前年比あるいは前期比で大幅な減益となっているが、考えてみればこれまでが安い円と海外のインフレのおかげで儲かりすぎていたのではないか。海外のインフレが修正期に入り安すぎた円が正当に評価されるようになれば、こうした利益が減少するのは当然である。なにも大騒ぎするようなことではない。地道な努力を重ねれば本来あるべき利益は間違いなく確保されよう。日本の輸出産業はそれだけの力を備えており、円高のもたらす国民の利益に政・財界およびマスコミはもっと目を向けるべきである。
(一本杉)