「テロが石油市場に及ぼす影響」=エネ研の特別速報レポート= 2001年09月18日更新
日本エネルギー経済研究所は13日、「米国に対するテロ攻撃が石油市場に及ぼす影響」と題した第2研究部長小川芳樹氏の特別速報レポートを発表した。以下はその要約。
〔今回のテロ攻撃と中東産油国〕
中東産油国はイラン、リビアを含めて哀悼と遺憾の意を表明、テロヘの賛同の動きは一切示していないし、原油輸出も正常に行われている。イラクの対応は必ずしもこれとは一致していないが、収入源である原油の多くが米国に向けられており、過激なテロ活動とは一定の距離を置いているものとみられる。
OPECは今回のテロを好機と捉えて石油を武器とする行動には出ないこと、また、必要があればいつでも増産する用意があることを表明した。今回のテロに対して世界中の憤りと非難が集中していることを考慮すると、中東産油国を中心にOPECは原油市場の安定化のために必要な行動はむしろ惜しまないとみられる。
〔石油市場の動向〕
証券、金融等の米国の市場機能はマヒしており、NYMEX先物取引市場も機能を停止している。ロンドンのIPEではブレント原油の取引が継続されて9月11日には31.05ドル/バーレルまで高騰したが、終値は29.06ドル/バーレルと30ドル/バーレルを割り込んだ。12日の取引は逆に値下がりし、終値は28.02ドル/バーレルと10日の終値27.45ドル/バーレルに比べ0.57ドル/バーレル高に止まっている。
テロ攻撃1時間前の米国石油協会の発表によると、米国の原油、ガソリン、暖房油はいずれも在庫が積み増されている。絶対水準としては不十分だが、原油価格が30ドル/バーレル以上で高止まった前年同期に比べると在庫状況は著しく改善されている。NYMEX市場が再開され、トレーダーのロングポジション形成による価格の上昇があったとしても、米国の石油会社は卸価格をテロ攻撃前の水準に凍結するという報道もあり、上記の状況や米国の経済活動が停止している状況からみて上昇は短期的なものに止まろう。
〔今後の原油価格の見通し〕
需給サイドからみれば、すでに顕在化し始めているグローバルな経済不況の様相が今回のテロを引き金として一層深刻化するおそれがある。一層の石油需要の低迷をもたらすだろう。テロで急騰した原油価格水準が続くとは考えられない。
原油価格を押し上げる最大の懸念は、中東産油国への報復の可能性を見越して、あるいは石油市況の先高を期待して、石油在庫の積み増し行動が強まることだ。また、それを材料にトレーダーが投機的な行動に出ることである。今後、テロ攻撃の混乱が収束に向かい、市場が実態を反映してくれば、近い将来にテロが起こる前の原油価格水準(WTIやブレントで27~28ドル/バーレル)に戻る、あるいは経済情勢の推移からみて更に下回る可能性も排除できない。
今後注目すべき主な直接的要素としては以下の点が挙げられる。
・テロの真相究明のタイミング
・米国の報復の時期と規模
・OPECのスタンス、とりわけサウジアラビア、イラン等主要産油国の政治的判断
・需要期を控えた世界の在庫水準