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「最近の原油価格について」 2005年07月06日更新

ごく最近ニューヨークで原油価格が60ドル超えの記録を作った。 これに関して様々な人が様々なコメントをメディアに載せているが、これらについて筆者の感想を述べてみたい。

まずOPEC諸国の人達は、生産量を増加させたところで価格が下がるわけではないと云っている。これはある意味で正しく、ある意味で正しくない。以前にも述べたがOPEC諸国に限らず、産油国はおそらくサウジアラビアを除いてすべての国が売れる量を可能な限り生産し販売しているはずである。 どこの国の政治家にしても、どこの会社の社長にしても、将来の金より今の金が欲しいのは当然である。したがって現在の原油価格が続いている間にできるだけ多く販売して莫大な“今の金”を手にしたいと考えるだろう。 つまり、殆どの国や会社は能力の限界まで生産し販売しているはずであり、正しくは生産量を即座に増加させることはできないと云うべきなのだ。しかしこれを云うと協定違反を自ら認めることになるので云えないだけの話である。

次に原油の供給は充分あるのだが、米国の石油精製設備が老朽化し能力の限界に達していることが製品価格を押し上げ、ひいては原油価格を高騰させている原因であるという説がニューヨークを中心に流されている。たしかに米国の石油精製設備は古い物が多く稼働率も100%近い所まで上っている。しかしこれは何も今に始まったことではなく10年以上も昔から云われていたことである。石油精製業は源流の原油生産業に較べて収益性に乏しい。 したがって投資は専ら原油の生産に向けられ、精製部門への投資は極力きりつめられてきた。これが米国における石油精製設備の老朽化の原因である。けれどだからと云って製品の供給に問題を起したことはない。不思議なことであるが米国の設備稼働率は往々にして100%を超えるのである。他国の常識をもって判断することはできない。

それではなぜこうした説が流されているのかと考える時、あることに思いつくのだ。
もし原油価格の高騰が米国の精製設備の老朽化に原因するとすれば、これは簡単に解決できる問題ではないことになる。とすれば原油価格はまだまだ高騰を続けるだろうとの憶測を呼んでさらに価格は上るはずだ。 つまり原油価格の下落を望まない向きが意図的にこうした見方を流しているとすれば、納得がいくのである。だがこれが正しいとすればかなり強引な手法と云える。

一般に相場に関しては強引さが目立ってきた時が汐の変わり目である。 その意味ではようやく汐の変わり目にきているのかもしれない。よしんば今後とも原油価格が上り続けたとしても、80ドルとか100ドルとかの価格になれば消費者の本格的節約が始まるだろう。 以前にも述べたが大雑把に云って消費量の約2割は無駄遣いである。 
消費者が無駄をなくそうと考えただけで、消費量は2割も少なくなるのである。 

これは当然原油価格に大きな下げ圧力を与えることになるが、もっと大きな影響を受けるのが、それまでに資源や設備や船舶に大きな投資を行った企業や国である。こうした投資が利益を生むことは、おそらくその後10年間はないだろう。米国の精製設備が老朽化しているのも、こうした過去の経験を反映しているとも考えられる。

(一本杉)

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