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「IT化社会の問題点」 2005年12月28日更新

先般みずほ証券が誤ってジェイコム社の株式を一株一円で61万株の売り注文を出し、結果として400億円を超える損失を蒙った事件があった。あり得ないことが起こってしまったのだが、これは現代社会の問題点を浮き彫りにした事件と云えよう。

(1)まず本件はもし従来のように電話で担当者が注文を出していれば絶対に起きなかった事件である。予定価格50万円台の上場初日の株を一円で売りに出す筈がないし、発行済み株式数が一万数千株の会社の株を61万株も売りに出す筈もない。したがって電話であれば当然市場での受け手が再確認を要求するだろうし、そうなれば発注者も間違いに気付いて訂正するに決っている。だからこうしたことは起きない。パソコンを使った取引の落し穴である。

(2)つぎにパソコンに入力ミスは付き物と言えよう。したがって入力ミスに対応するプログラムがシステムに組み込まれていなければならない。ましてや今回は証券会社と取引市場とのシステムを通じたやりとりである。このような巨額の資金の移動を行うのが前提のシステムであれば尚更である。証券会社は自分のミスに直ぐ気がつき注文の取り消しに努めたが取引市場のシステムがこれに対応しなかったらしい。これは明らかに取引市場のシステムに欠陥があったものと考えられ、取引市場および場合によってはシステムを納入した会社にも相応の責任があろう。

(3)さらに一円で成約した取引についてだが、一円で売り手と買い手が合意して成約しているのだから形式的には正常な取引である。しかし売り出し予定価格が50万円を超えている株式を一円で買う場合、この契約の最大リスクは一円であり(つまりこの株式が単なる紙くずとなってしまった場合)、しかも50万円を超える売り出し予定価格が存在することを考えればこの一円のリスクすら存在しないことになる。期待収益に見合うリスクを負担するのが正常な取引であるとすれば、これは正常な取引ではないことになる。必ずしも適切な例ではないかもしれないが、誰かが誤って道に落とした財布を拾ってネコババした場合、他人のミスに乗じて利益を売るという意味では同じことである。こうした行為が証券市場で行われてよいものであろうか。さすがに一円株を買った証券会社はこれにより得た利益を私しないようだが、これは見識というよりはむしろ当然の事と言えよう。正常でない取引により利益を得る事を社内で認めたら、今後何が起こるか分らないからである。 できれば個人の方々もこれに準じて頂きたい。昔から只より高い物はないというが、此の種の利益を得ると目には見えていない大きなリスクを背負い込むことになりかねないからである。宝くじで当ったのが不幸の始まりという話しをよく聞くではないか。

以上で今年のコラムは終了です。読者の皆様には一年間お付き合い頂き真にありがとうございました。どうか良いお年をお迎えください。

(一本杉)

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